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1章 今、全ての人に贈る最期の世界 1

Author: 深田あり
last update publish date: 2026-08-18 20:06:31

 あれから三日。この終末的な世界での暮らしにも少しずつ慣れてきた。

 制服の上にトレーナーを着込み、コートを羽織り、マフラーと手袋をして毛皮の帽子を被る。靴はスニーカーではなく工事現場などで使ってそうなゴツイ安全靴を履き、瓦礫の海を泳ぐ。

 それは食料を手に入れるためだ。

 コンビニやスーパーなどの跡地には食べ物が結構残っており、それを回収するのが俺の仕事。ついでに黒い渦をこっそりと探してはみたが、そちらはまるで見つからない。

 見渡す限りの廃墟が眼前に広がっている。

 今日は快晴ということもあり青々とした空が雄大に広がっているが、その下を彩る街並みはどうしようもなく地獄だった。

 冷たい風が肌を穿つ。いずみが言うには今は七月で間違いないはずなのだが、とても七月の空気ではない。昨日コンビニから拝借した温度計を確認すると現在の気温は三度。関東では真冬である。

 雪こそ降っていないが、この瓦礫の世界でそんなもの降ったら動けなくなってしまうのではないだろうか。怪我をしても病院はない。恐怖がどくんと心臓を跳ねさせる。

 さて、仕事だ。俺はスーパー跡地の中へと入る。まだ若干スーパーの面影が残っていて、天井こそ崩れかかっているが中に入れたし、薄暗い店内には商品が残っている。

 ただ、食料は少なかった。

 日持ちしない生ものは一つもなく、スナック菓子や缶詰も数が非常に少ない。この寒さのお陰で腐臭をまきちらすものはなかったが、明らかに変色して傷んでいるであろうパンは持って行けない。

 やむなく、俺はわずかな缶詰を手提げに放り込み、店を出た。店はミシミシを嫌な音を立てていて、長居したくないのだ。

 帰り道、がさごそと手提げの中で缶詰が揺れる音がする。肩に垂らしたスポーツバッグは対称的にすっからかんで、歩くのに邪魔なだけだった。

 瓦礫の海をサーフィンしながら宮一へと戻る。

 鉄で出来た眉みたいな物体が校庭の隅っこにあって、これを『箱船』というらしい。体育倉庫を改造したものらしく、中には畳を敷いてあり、そこが現在俺たちが生活している場所だ。元が体育倉庫だけあって大したスペースはないが、崩れかかった校舎で生活するよりは遙かに安全だった。

 俺は箱船の隣に設置した物置に食料を並べる。缶詰十五個。本当に大した数じゃない。

 倉庫には缶詰やらスナック菓子、乾パン、粉のスープなどが大量に並べられている。生ものは一つもない。全部保存食だった。

 ぐらり、大地が揺れる。よくあること。日に百回はあるのでもう慣れた。

 と、缶詰が崩れそうになったので咄嗟に押さえて並べ直す。

「ふう」

「春弥ー、食料見つかったー?」

 声が背中から聞こえてきた。

 振り向くとそこにはいずみが居て、彼女もバッグから二十個ばかりの保存食を取り出し、見せつけてくる。

 俺は苦笑し、肩をすくめる。

「いや、さっぱり」

「やっぱねー。そろそろ他の地域に遠征しないとダメかもしれないなあ」

 あまり遠出はしたくない。どこもかしこも瓦礫だらけで歩くのが容易ではないからだ。

 しかし近隣のコンビニやスーパーはもう全滅状態。贅沢は言えない。

 いずみは栗色の髪の毛を梳きながら、はは、と苦笑を返した。

 と、その時。

「ん」

 もう一人の女の子がやってきた。やはり制服の上にコートと帽子、そしてマフラー。まあ、俺たちと同じいでたちだ。歳も同じだろう。

 腰まで届く黒いストレートの長髪とキリっと鋭くつり上がった瞳が印象的で、背丈も中々に高い。百六十後半はあろうか。スレンダーな体躯だが姿勢がいいためどこか大きく見える。

 彼女は天藤由那。箱船のメンバーである。

 彼女はバッグから――なんと牛肉と豚肉のパックを取り出し、俺たちに見せつけてきた。

「あ、すごっ、お肉!? 由那すごーい、どこでこんなものを!?」

 いずみの驚きに、由那はぼそっと答える。

「民家の冷凍庫。凍ってたから奇跡的に腐ってなかった」

「えー、冷凍庫はあらかた探したと思ったのに、まだあるもんだねえ」

「しかし……よそ様の家の冷凍庫漁るっていいのかなあ」

 あくまで倫理的な問題。しかしいずみは呆れたように俺に冷たい視線を向けながら。

「いいんだよ。どうせ誰も住んでないんだから」

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